当科における癌に対する化学療法について、各癌ごとに解説いたします。
胃癌の化学療法と成績
当科では主にガイドラインに準拠した化学療法を行っております。胃癌の約20%にHER2という蛋白質が発現(HER2陽性胃癌)しており、HER2発現の有無によりガイドラインで推奨される化学療法が異なっています。HER2陰性胃癌の1次治療として主にS-1+CDDP(ティーエスワン+シスプラチン)療法、またはG-SOX(ティーエスワン+オキサリプラチン)療法を行っております。S-1+CDDP療法は大量の点滴を行うため基本数日の入院が必要ですが、G-SOX療法は安定していれば外来での治療も可能というメリットもあり、最近ではG-SOX療法が増えてきています。HER2陽性胃癌にはトラスツズマブという抗癌剤を併用することの有効性が示されているため、HER2陽性胃癌の患者さんには、S-1+CDDP+トラスツズマブ療法を1次治療としています。現段階では化学療法での治癒は難しいとされていますが、化学療法が著効した場合は手術可能となることがあります。2次治療としてはアブラキサン+ラムシルマブ、3次治療としてはイリノテカン、またはニボルマブを行っています。また、全身状態により強い化学療法の適応とならない患者さんには、S-1(ティーエスワン)単独療法やラムシルマブ単独療法等を行うこともあります。
当科で1次治療としてG-SOX療法を行った切除不能胃癌13名(39~81歳、PS0~1)の検討では、生存期間中央値は13.1ヶ月でした。
最近5年間の新規胃癌化学療法の件数(1次治療) |
|
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
S-1+CDDP |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
G-SOX |
3 |
1 |
7 |
4 |
4 |
S-1+CDDP+トラスツズマブ |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
S-1単独 |
3 |
1 |
0 |
0 |
0 |
ページの先頭へ
大腸癌の化学療法と成績
大腸癌はかつては抗癌剤の効きにくい癌とされていましたが、最近の化学療法の進歩により、現在では抗癌剤の有効な癌とされています。手術で切除のできない進行大腸癌は、化学療法を行わない場合、生存期間中央値は8ヶ月程度と報告されていますが、現在、化学療法により生存期間中央値は約30ヶ月まで延長しています。化学療法での治癒は難しい状態ですが、化学療法の著効した場合には、手術で切除可能となることも期待できるようになりました。
大腸癌の1次治療、2次治療は、主にフルオロウラシル類の抗癌剤とオキサリプラチンの併用療法、または、フルオロウラシル類とイリノテカンの併用療法が行われます。フルオロウラシル類の抗癌剤には、5FU、ティーエスワン、カペシタビンなどがあり、5FUとオキサリプラチンの併用療法をFOLFOX療法、ティーエスワンとオキサリプラチンの併用療法をSOX療法、カペシタビンとオキサリプラチンの併用療法をXELOX療法と呼んでいます。FOLFOX、SOX、XELOXの効果は同程度と考えられています。また、5FUとイリノテカンの併用療法をFOLFIRI療法、ティーエスワンとイリノテカンの併用療法をIRIS療法と呼んでいます。FOLFIRIとIRISの効果も同程度と考えられています。また最近では、大腸癌細胞内のRASという遺伝子に変化(変異型)のある場合や、大腸癌の発生部位により、5FUとオキサリプラチン、イリノテカンを併用するFOLFOXIRI療法の有効性も報告されています。FOLFOX、FOLFIRI、FOLFOXIRIは、5FUを2日間持続で点滴する必要があり、ポートと呼ばれる点滴用の装置を皮下に埋め込む必要があります。SOX、XELOX、IRISでは長時間の持続点滴が必要なく、通常はポートは必要ありません。その他、ベバシズマブやセツキシマブ、パニツムマブ、ラムシルマブとうい分子標的薬も使用されています。ベバシズマブは単独では効果はありませんが、FOLFOX、FOLFIRI、FOLFOXIRI、SOX、IRIS、XELOX療法との併用で生存期間の延長が報告されています。しかし、ベバシズマブには、血栓症、傷の治りを遅くするなどの副作用があり、血栓症や脳病変ある患者さんや手術後間もない患者さんには使用できないことがあり注意が必要です。セツキシマブ、パニツムマブは、癌細胞にあるEGFRという蛋白質を標的とした薬剤で、癌細胞内のRASという遺伝子が通常型(野生型)の場合に効果を発揮します。しかし、癌細胞によってはRAS遺伝子が変化している(変異)場合があり、その際は効果は認められません。セツキシマブやパニツムマブは、3次治療として単独またはイリノテカンと併用で使用されたり、1次、2次治療でFOLFOXやFOLFIRIと併用で使用されたりしています。
当科の化学療法
当科では概ね以下の方針としておりますが、患者さんの状態やご希望、副作用の具合により変更する場合があります。
- RAS野生型
1次治療:mFOLFOX6+パニツムマブ
2次治療:FOLFIRIまたはIRIS(+ベバシズマブまたはラムシルマブ)
3次治療以降:スチバーガやロンサーフ(+ベバシズマブ)
- RAS変異型
1次治療:mFOLFOX6、SOXまたはFOLFOXIRI(+ベバシズマブ)
2次治療(1次治療がmFOLFOX6またはSOXの場合):FOLFIRIまたはIRIS(+ベバシズマブまたはラムシルマブ)
3次治療以降:スチバーガやロンサーフ(+ベバシズマブ)
2008年以降当科で1次治療としてFOLFOX、XELOX、またはSOX(+分子標的薬)で治療を行った切除不能大腸癌52名の検討では、生存期間中央値は29.9ヶ月でした。
最近5年間の新規切除不能大腸癌化学療法の件数(1次治療) |
|
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
mFOLFOX( 分子標的薬) |
2 |
0 |
1 |
6 |
5 |
SOX( 分子標的薬) |
1 |
2 |
0 |
5 |
2 |
XELOX( 分子標的薬) |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
ユーエフティ/ユーゼル |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
ティーエスワン(+分子標的薬) |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
ページの先頭へ
膵癌の化学療法と成績
切除不能の膵癌に対しては、当科では1次治療として主にゲムシタビン+アブラキサン療法、2次治療としてFOLFIRINOX療法(5FU+ロイコボリン+オキサリプラチン+イリノテカン)、またはティーエスワン単独療法を行っています。また、全身状態により強い化学療法の適応とならない患者さんには、ゲムシタビン単独療法やティーエスワン単独療法を1次治療とすることもあります。
当科のゲムシタビン+アブラキサン療法で1次治療を行った19名の検討では生存期間中央値は13.7ヶ月でした。
最近5年間の新規切除不能膵癌化学療法の件数(1次治療) |
|
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
ゲムシタビン+アブラキサン |
5 |
4 |
7 |
8 |
6 |
ゲムシタビン |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
ティーエスワン |
2 |
0 |
1 |
1 |
0 |
ページの先頭へ
胆道癌の化学療法
現在、切除不能胆道癌に対してゲムシタビン+シスプラチン療法が標準治療とされており、当科でもゲムシタビン+シスプラチン療法を第一選択としています。全身状態よりゲムシタビン+シスプラチン療法が行えない場合は、ゲムシタビン単独療法やティーエスワン単独療法を行う場合もあります。
当科のゲムシタビン+シスプラチン療法で1次治療を行った12名の検討では生存期間中央値は12.8ヶ月でした。
最近5年間の新規胆道癌化学療法の件数(1次治療) |
|
2016年 |
2017年 |
2018年 |
2019年 |
2020年 |
ゲムシタビン+シスプラチン |
1 |
0 |
1 |
0 |
2 |
ティーエスワン |
0 |
1 |
2 |
0 |
2 |
ゲムシタビン |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
ページの先頭へ