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診療科・部門

肝癌に対するラジオ波治療について


名称

正式にはラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation ; RFA)といい、皮膚を通して針を刺して行うのを経皮的ラジオ波焼灼療法といます。通常ラジオ波と言えばこれを指します。あと全身麻酔下に腹腔鏡を腹腔内に挿入して施行する方法もあり、これは腹腔鏡的ラジオ波焼灼療法と言います。当院では全例経皮的に施行しています。経皮的に行う利点としては全身麻酔が不要で術後の負担も軽いこと、術前の処置が不要なことなどがあります。

対象

肝臓にできた悪性腫瘍の治療法で、原発性肝癌(肝細胞癌)、転移性肝癌のいずれにも効果があります。
肝細胞癌は、肝機能が低下した慢性肝疾患に発生することが多く、また早期に治療した場合でも再発が大変多いことより、肝臓になるべく負担を与えない治療法が必要で、手術よりもこのような内科的な治療が効果的な場合が多く、一般的には大きさ3cm個数3個までなら、ラジオ波治療で十分に治療できると考えられています。当院ではさらにより大きな腫瘍まで治療を試みており、場合によっては同時にエタノール注入を併用したりすることによって壊死範囲を拡大させる方法も行っています。またラジオ波治療のみでは全ての腫瘍が治療不可能な場合でも腫瘍を縮小させることにより他の治療法の効果が期待できる場合は積極的に施行しています。
また転移性肝癌にも積極的に施行しております。小さいものであれば手術に変わりうるものと考え、手術を希望されない方や困難な方に積極的に施行しております。またやや大きいものでラジオ波治療単独では治療し切れないものでも、まずラジオ波治療で腫瘍の大半を壊死させた後抗癌剤を投与したり、逆に抗癌剤投与を先行させ腫瘍の大きさを小さくしたり、個数を減らした後にラジオ波治療で残りを壊死させたり、といった抗癌剤の動注療法や全身投与との併用で、長期生存を目標として施行しております。小さい肝癌については、手術とラジオ波治療の優劣についてはまだまだ議論があるところですが、当科では手術の可能な患者さんについても両治療法の長所短所や当科の成績を含めて説明し、ラジオ波治療をご希望される方には手術でなくラジオ波治療を積極的に行っております。
腫瘍の存在部位によっては針を刺すことが困難でラジオ波治療ができないと言われることもありますが、施設間の差が大きいのが現状であり、当院では様々な工夫により、ラジオ波治療が必要な腫瘍の大部分に施行可能でした(治療完遂率99%)。他院でラジオ波が難しいといわれた方も、当院であれば可能な場合もあるかと思います。是非一度当科を受診してみていただければと思います。

方法

事前に痛み止めを点滴してから、腫瘍を超音波検査にて確認し、その画面を見ながら、皮膚の局所麻酔をしたあと、太さ1mmぐらいの金属製の針を腫瘍に刺します。この時肝臓内の血管などが針の通り道にならないように注意します。針が刺さったら、その先端からラジオ波という熱が発生して、腫瘍を焼きます。1回に径3cmの球として焼けるので、その範囲の腫瘍は壊死します。腫瘍が2cm以下であれば1回で腫瘍全体を壊死させることが可能ですが針が微妙にずれたりするので小さい腫瘍でも複数回の治療が必要な事があります。大きいものは複数回に分けて施行します。焼灼時間は1回9分もしくは12分で、このとき痛みがある程度生じますが痛み止めの追加で対応可能で、途中で中止したことはありません。なお痛みが激しい方に対しては麻酔科の医師に依頼して硬膜外麻酔を行う場合がありますが、ここまで必要な方は稀です。
以前は一日に1回のみの施行にしていましたが、最近は術中の症状が強くない場合は一日に数回焼灼して入院期間の短縮に努めています。病変の大きさおよび個数によって治療回数は変わりますが目安として15mm以内でかつ治療しやすい場所であれば一日に3個ぐらいまでは治療可能です。かつては週1回の治療を原則としていましたが、治療の間隔は中2日以上あり患者さんの状態が問題なければ追加治療を行いますので週2回行う場合が普通です。いずれにしろ治療回数は個人差が大きく、また事前に予測は困難ですので、その都度担当医に確認してください。大切なのは治療期間の短縮ではなく十分に壊死させることですので、治療回数が増加や、期間の延長も多々ありますが、しつこく治療することが良好な治療効果につながりますのでご理解いただければと思います。
最近ではソナゾイド造影エコーを用いて焼灼範囲を拡大させて局所再発を防止するように工夫しています。
また最近RVSというCT画像を超音波画面と同じ断面で確認できる装置を導入して治療成績の向上に努めています
(本稿後半のReal-time Virtual Sonography(RVS)を用いたラジオ波焼灼術(RFA)を参照ください)
術後は痛み、吐き気、熱が出ることがありますが、殆どの方は2時間ぐらいの安静のみで、その日の夕食から摂取可能です。

成績

当院では平成12年12月に導入以来、平成30年12月までに、636人(のべ1440例)の患者さんに存在した2506病変に対して3991回のRFAを行いました。近年はC型肝炎の新規発症が減り、また根治できる薬が普及した影響で新規の患者さんや再発する患者さんが激減しその結果RFAの件数も減少しています。

以下、肝細胞癌と転移性肝癌に分けて説明いたします。

a)肝細胞癌に対するRFA

肝細胞癌の場合は、ラジオ波治療で壊死可能な大きさ、個数と判断した場合は場所等にかかわらずラジオ波治療を行っております。腫瘍の存在部位等によって最初から断念するということは基本的にありません。もちろんどうしても危険があると判断した場合はこの限りではありませんが。なおかつラジオ波治療で完全に腫瘍を退治する目的で施行した1373病変(径17.1±9.4mm,最大71mm)のうち純粋に場所の理由で他治療を選択したものは、この期間中5病変のみで2例PEIT、残りの2例はTAEでこれらは治療しています。また部位的に困難と判断し経過観察となったものが1病変、患者さんの希望で断念したものが1病変でした。局所再発は下表のとおりで、とくに本来の適応である3cm以下では10%と他の報告どおりの結果でした。
最大径 例数 再発
20mm以下 1046 95(9.1%)
21mm以上30mm以下 221 36(16%)
31mm以上 106 34(32%)
一方、当科で1999年から診療した肝細胞癌は513例ですが、そのうち当院で初回から治療を行った症例は431例で初回治療にRFAを施行したものは356例でした。その生存率は3年生存率83%、5年生存率71%でした。この成績は全国肝癌追跡調査で報告された成績(57.7%)より良好でした。その中で一般的にRFAの適応と言われている3cm3個までの例は273例あり、これらの生存率は3年88%、5年生存率78%とこの範囲を超えたものより良好でした(グラフ参照)。当科では3cm3個以内のほぼ全て(99%)の患者さんをRFAで治療しております。もちろん手術可能な場合は両治療法の説明についてお話させていただいておりますが、成績が良好なことと患者さんへの負担が少ないことを考えるとRFAという選択は患者さんにとっても有益と考えております。

b)転移性肝癌に対するRFA

転移性肝癌は手術が可能なら手術、だめなら抗癌剤という方法が一般的です。特に大腸癌肝転移に対しては可能な限り手術を行うことが予後向上につながるとされています。
しかし現実には病変が手術可能であっても年齢や合併症などにより手術が困難な場合も多く、また患者さんが何度も手術を行うのは辛いとのことで希望されない場合も多くみられます。肝転移の再発を繰り返す場合も、可能な限り手術を施行すべきとの意見もありますが、繰り返す手術を受け入れる患者さんは多くはないのが現実です。その場合、抗癌剤治療が選択肢になり得ますが、抗癌剤は腫瘍の成長をおさえて患者さんの寿命を延ばすことが目的であり、手術のように病変全てを壊死させることは困難です。
一方、RFAは腫瘍の壊死が可能な治療であり、当科では手術に代わりうるものとして積極的に施行しております。また根治は困難でも、先にRFAで腫瘍の容積を減少させながら抗癌剤を動脈投与あるいは全身に点滴で投与する方法で腫瘍の増大を抑制したり、あるいは抗癌剤を先行することにより腫瘍が減少した場合にRFAで残りを壊死させたりという方法を行っております。すなわち転移性肝癌の場合は腫瘍が小さい場合は(理想は2cm以下)手術より侵襲の少ない根治治療になりうる可能性があると考え単独で手術の代用の目的で、やや進んだ場合は他の治療と併用することにより予後の延長に寄与させる目的で様々な場合に積極的に活用しております。実際肝転移に対する手術直後にまた再発した場合にRFAを行った場合もあります。
また手術も抗がん剤も困難な患者さんにRFAで腫瘍が増大するたびに焼灼し3年生存した患者さんもおります(計9回の入院でRFAを行いました)。本来なら手術適応だが様々な理由で手術が不可能、もしくは希望されない方、抗癌剤治療の効果が不十分な方や、副作用等で継続が困難となってしまった方、また抗癌剤治療で腫瘍が縮小した方などは一度受診していただければRFAの可能性につき相談させて頂きます。転移性肝癌の場合は原発の臓器によって治療方針が決定されます。どの癌もRFAが有効かはまだまだ検討が必要ですが、上記のような理由で原発臓器にかかわらず、RFAが生存期間の延長に寄与すると考えられる場合はRFAを試みています。原発巣が消化器系の癌であればRFA後も引き続いて治療することが可能ですが、他の臓器の場合は、RFA終了後は原則的に前医で抗癌剤治療を行っていただきます(当院で治療可能な場合はその限りではありません)。
当科でRFAを行った転移性肝癌の原発巣は以下のとおりです(述べ症例数のため重複あり)
■当科で施行した転移性肝癌ののべ症例数
根治目的 減量目的
胃癌 2 16 18
大腸癌 170 120 290
食道癌 1 2 3
胆道癌、肝内胆管癌 6 17 23
膵癌 7 9 16
肺癌 4 2 6
乳癌 1 0 2
膀胱癌 0 2 2
前立腺癌 5 0 5
卵巣癌 4 3 7
その他 6 7 13
163 138 301
その中で転移性肝癌の中で多く行われている大腸癌肝転移について説明いたします。
大腸癌肝転移は様々な治療の組み合わせが主体で、いろいろ状況でRFAが行われています。当科でRFAを行った大腸癌肝転移2017年10月までに116 例(男:女80:36,69±10歳(mean±SD)でした。全体の肝転移からの生存率RFA開始時からの生存率をグラフにお示しします。さらにそれらを3cm3個以内かどうか(適応群)と初回治療として行ったかで4群に分けて生存率を算出した表をお示しします。
結果をまとめると
  • 他治療後の再発でRFAの適応内の場合、予後はRFAより4年、肝転移より5年超生存
  • 減量目的のRFAは、初回でも他治療後でも予後はどちらも3年弱
全体の局所再発率は20%で再発が多いのが問題ですが、5年以上生存した12例中5例は局所再発しており、局所再発しても適切にRFAを追加することにより予後は良好になり得ると考えられます。 現在大腸癌肝転移に対する外科手術の成績は5年生存率が30-50%といわれており、 切除が困難な患者さんを含んだ当科の成績(初回3cm3個以内で5年生存率52%)は手術と比べそれほど遜色あるとは考えておりません。転移性肝癌に対するRFAもソナゾイド造影エコーやRVSを導入して治療成績の向上に努めています。 私たちは転移性肝癌に対するRFAは、他の治療法の代わりに負担なく行える治療かつ他治療と併用可能な治療と考え、重要な手段と位置づけています。
私たちが大腸癌肝転移に対してRFAを検討に値すると考えるのは、
  1. 転移巣が切除可能だが患者さんが切除を希望しない場合や全身状態等で切除が困難な場合で、RFAの適応範囲内のときは切除の代用として
  2. 切除困難で抗癌剤施行している場合はRFAで上乗せ効果
  3. 切除も抗癌剤も困難もしくは希望しない場合は延命効果を期待して
と考えております。もしRFAをご希望される患者さんが降りましたら一度当科外来を受診してみてください。

RFAの適応範囲内か?
(3cm3個以内他臓器病変なし)
初回治療として(初回群) 初回
適応群
初回
原料群
他治療後(再発群) 再発
適応群
再発
減量群
全体 初回
適応群
初回
減量群
再発
適応群
再発
減量群
n=116 n=33 n=51 n=9 n=23
RFA開始時 1年 (%) 92 100 89 100 81
3年 (%) 53 63 43 73 48
5年 (%) 32 52 16 49 23
50%生存
期間
(月) 40.8 32.6 53.7 33.1
肝転移発見時 1年 (%) 94 100 89 100 91
3年 (%) 63 63 43 100 80
5年 (%) 38 52 16 69 44
50%生存
期間
(月) 48.0 32.6 65.9 56.1

c)合併症

以下に、ラジオ波焼灼療法で起こりうる主な合併症を示します。
  1. 腹痛、発熱
  2. 出血
  3. 門脈血栓
  4. 胆管損傷
  5. 肝膿瘍
  6. 肝梗塞
  7. 隣接臓器損傷
    ①消化管損傷 ②胆嚢損傷 ③肺、横隔膜損傷 ④心臓損傷 ⑤腹膜および皮膚熱傷
  8. 肝障害・肝不全
  9. 鎮痛剤による呼吸抑制、循環障害
  10. 播種(はしゅ)
  11. 再発・異常再発
上記は主な合併症を列挙しております。腫瘍の場所や肝臓の状態でその危険率は変化します、 また医療はまだまだ未知のことが多数あり、我々の予見し得ない合併症の起こる場合も稀ながらあり、非常に稀ですが、 この治療による死亡例の報告もあります。万が一、副作用や偶発症が起きた場合は最善の処置と治療を行います。 この際、入院期間が延長する場合や、緊急の処置(輸血、手術等)・治療が必要になる場合もあります。 全穿刺回数3902回中、入院期間延長を要した合併症の頻度は58回1.5%で、特別な処置を施行したものは腸管穿孔1例、 胆道出血2回、胸腔内出血1回、肝膿瘍2回、気胸1回でした。また異常再発が2例(初期の症例のみ)で、 播種はありませんでした。なお合併症の詳細は、施行前に解説を記載した説明文書を用いて説明いたします。

入院期間

基本は毎週月曜日ですが水曜日を除く毎日施行していますので、 ラジオ波治療だけであればその前の週の後半に入院していただきます。 必要な回数(腫瘍の大きさ、数により決まります)のラジオ波治療後、通常は二日後にCTで治療効果を確認し、 壊死した範囲が十分であればその週の終りに退院、不十分の場合は追加のラジオ波治療を施行します。 しかし肝細胞癌であればラジオ波治療の前に血管造影および塞栓術を行う場合も多く、5日程度前に入院となります。 転移の場合は他の治療法が必要な場合もありその時はより長くなります。治療を希望される患者さんに対して、 できるだけ早く治療(外来受診の翌日に入院していただく場合もあります)がおこなえるようにしています。

担当

日本肝臓学会専門医である消化器内科後藤部長(外来日は火、木)を中心に チームを組んで全ての症例を同様な方針で治療しています。

以上、肝癌に対するラジオ波治療について簡単に説明しました。 肝癌は早期診断と徹底した治療、および再発の早期発見が重要です。 またラジオ波治療といった局所治療が不可能な場合でも最近は様々な抗癌剤を用いた動注療法を施行して 良好な成績をあげています。ラジオ波治療は一見すると簡単に施行できそうですが、 施設間の差が大きいのが現状であり、専門的に行っている施設で治療を受けられることが大切です。 肝癌は基本的によほど進行した状態でないと症状がほとんど出現せず患者さんが病院を選択することが可能な疾患です。 慢性肝疾患で癌が心配な方、肝臓に腫瘍があるといわれた方や治療が難しいと言われた方は、 一度当科外来へお越し下さい(肝癌全体の治療成績や受診方法は消化器内科本文参照して下さい)。

ラジオ波に使用する針

長さ20cm太さ1mm強です

ラジオ波治療に用いる装置

治療を行う部屋
超音波装置とラジオ波の装置のみの簡素な造りです

Real-time Virtual Sonography(RVS)を用いたラジオ波焼灼術

平成26年10月に超音波装置を相次いで更新いたしました。今回の超音波装置には画期的な機能が付属しています。それはRVSという機能です。当科は肝癌に対するラジオ波治療を積極的に行っておりますが、その方法は、肝癌を超音波装置で目標の癌を描出してその画面を見ながら針を刺していく治療ですが、目標部位(CTやMRIでは見えているもの)が必ずしも超音波画像で明らかになるとは限りません。その場合はCTやMRIの画像を参照しながら目標部位を探すのですが、CTなどが体の水平面で画像を表示するのに対し超音波は肋骨の関係で水平断面の描出が困難なためCTで明らかな目標部位を明らかにすることが困難でした。それを解決する技術として開発されたのがこのRVSという方法です。RVSはあらかじめ超音波装置内にCT(あるいはMRI)のデーターをCDで取り込んでおきます。磁気位置検出ユニットをプローブに接続することにより超音波で描出している断面と同じ角度方向の断面を再構成して画面に超音波画面と一緒に描出させることができます。開発当初は装置も大きく邪魔で煩雑でしたが今回のものは場所もほとんどとらず、時間もなれれば数分でセットできます。もちろん両画像に誤差はありますが、目標部位の設定に有用であり、積極的に活用しています。今後その有用性を検討し報告させていただきます。

今回更新した東芝Aplio 500、
RVS機能であるSmart Fusionを搭載しています

磁気発生装置、患者さんのそばにあるだけでよい

センサーとアタッチメントとプローブ

装着した状態、邪魔になりません

RVSを用いた画像
右)超音波画面、肋間走査であり一般的な肝門部の画像です。
左)RVSによってCT画像を超音波画像と同じ断面に再構成しています。
(a 門脈 b 肝静脈)

症例

横隔膜近傍の超音波で確認しづらい例です。他院で治療困難とされ紹介されました。
左)超音波画面、腫瘍が淡く高エコーに見えます(矢印)
右)同腫瘍を貫くようにラジオ波の針を刺入ました(先端が白く見えます:矢頭)

右)治療前CT:肝ドーム下に門脈相で抜ける2cmのHCC(矢印)を認めました。
左)RFA後、腫瘍を囲んで大きく壊死範囲(黒い領域:矢頭)を認め治療効果良好と判断しました。
横隔膜の近傍で難易度が高い症例でしたが無事治療できました。

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