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診療科・部門

粘膜下腫瘍の診療と治療


胃粘膜下腫瘍に対する当院での取り組み

胃粘膜下腫瘍の診断

①胃の粘膜下腫瘍とは
胃の粘膜(最も内側を覆っている膜)の下にできる腫瘍は、従来「粘膜下腫瘍(submucosal tumor:SMT)」と呼ばれてきましたが、近年では、胃上皮の下から発生する腫瘍全般を「Subepithelial Lesion(SEL)」と総称することが増えています。つまり、従来のSMTはSELの一部に含まれることになります。いずれの場合も、腫瘍は内視鏡的に観察できる上皮・粘膜の下に存在するため、内視鏡では腫瘍部が盛り上がって見えるのが特徴です。

図1:胃粘膜下腫瘍(SEL/SMT)のイラスト

②胃粘膜下腫瘍の種類
胃粘膜下腫瘍(SEL/SMT)には、良性から悪性まで様々なものがあります(悪性の腫瘍とは、放置すると死に至る可能性が高いもので、いわゆる“がん” もその一つです)と思い浮かべるとおもいます)。しかし、内視鏡 ではその腫瘍の本体を通常直接観察することができません(腫瘍本体は粘膜に覆われているため)。そのため下記で示すような各種検査で腫瘍本体を予測していくことから始まります。

過去の様々な研究の結果、良性では筋腫、脂肪腫、嚢胞(水の袋のようなもの)、神経鞘腫など、悪性では肉腫や消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)などが報告されています。そのうちのひとつであるGISTは、消化管壁の筋肉間にある神経叢に局在するカハールの介在細胞に分化する細胞から発生した腫瘍で転移などのリスクもあり診断がついた場合は手術が勧められています。また平滑筋腫や神経鞘腫なども、経過中に所見が変化していくものや、明らかな増大傾向があり悪性化の否定できないものや、通過障害などの症状を伴うものに対しては切除が勧められます。
③胃SEL/SMTと診断された後の標準的な流れ
・2cm未満+画像所見で悪性を疑う所見なし:年に1〜2回の経過観察
・2cm未満+増大傾向・悪性を疑う所見あり、または2〜5cm:精査、手術
・5cmを超えたもの:原則手術と考えられます
画像:内視鏡、CT、MRI、超音波内視鏡検査(EUS:内視鏡に超音波機能が備わった特殊な内視鏡)
組織採取法:内視鏡的に生検、EUS-FNAB(超音波内視鏡から針を出して組織を採取する)、粘膜切開組織採取(当院で臨床研究として施行)
参考:日本癌治療学会(編).GIST診療ガイドライン 2022年4月改訂 第4版 

当科では、1〜2cm程度の大きさで内視鏡検査中に偶然発見された胃のSEL/SMTに対しても、積極的に超音波内視鏡やCT検査を行っています。必要に応じて組織採取を実施し、確定診断を目指します。
④治療に関して
<原則、治療が必要な場合>

GIST、5㎝を超えたSMT、症状・悪性所見を有するSMTなど

<治療方法>

胃粘膜下腫瘍の切除には、従来、外科手術が標準的な治療とされてきました。近年では、内視鏡医と外科医が連携して行う腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除(LECS:Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)の有効性が報告されており、当院でもこの手法を導入しています。

LECSでは、まず腹部に5〜10mm程度の小さな孔を数か所開け、腹腔内に鉗子などの手術器具を挿入して操作します。胃粘膜下腫瘍は胃の外側からは見えにくいことがあるため、同時に内視鏡(胃カメラ)を併用して胃の内側から腫瘍の位置や範囲を正確に確認することで、切除範囲を最小限にとどめることが可能になります。これにより、従来の胃局所手術と比較して術後の狭窄や胃の変形を抑え、手術前と同様の胃機能を温存できることが期待されます(図2)。

図2. 外科・内科の共同作業でLECS治療を行った際の内視鏡写真

手術室の風景

さらに、ESD技術の進歩により、胃の内腔側に発育する3cm以下のGIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)などに対しては、内視鏡のみで胃壁を全層性に切除する「内視鏡的胃局所切除術」が先進医療として承認されました(当科では2024年11月に先進医療の認定を取得しました)。この治療法では、腹腔鏡を併用する方法と比べて胃壁への侵襲を最小限に抑えることができ、切除後の欠損部も内視鏡的に縫縮するため、臓器機能の温存が期待されます(図3)。

図3. 2cm大の胃GISTに対する内視鏡的胃局所切除術の実際

なだらかに盛り上がっている腫瘤(GIST:矢印)に対して内視鏡的に切除を行った。
切除面(胃穿孔部)は特殊なクリップによって完全閉鎖された。

治療にあたっては、超音波内視鏡やCT検査に加え、外科医とのカンファレンスを通じて治療方針を多角的に検討し、患者様にとって最も低侵襲かつ安全な治療法をチームで判断・実施しています。

最後に

以上胃SEL/SMTの新しい治療法について簡単に説明させていただきました。本治療法に関心を持たれた方は当科外来を受診していただき、担当医にご相談ください。
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